リーマン・ショックと東日本大震災後の経営危機の中でCEOに就任。短期間での大変革が不可欠だと考えてMBOで株式を非公開化。業績回復には革新的な新商品が必要だが… |
Lecture - 三木 純一 氏 (元ローランド代表取締役社長CEO)「自分軸」で改革推進
6年ぶりの再上場を達成 経営危機の中でローランドのCEOに就任した三木純一氏。短期間での変革に向けて、就任翌年にMBOで株式を非公開化するが、業績を回復させて6年後に再上場を果たす。この復活劇を最前線で指揮してきた同氏が、変革を成功に導いた秘訣を解説した。
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私がローランドのCEO(最高経営責任者)に就いたのは2013年4月です。2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災の影響を受けて、当時のローランドは経営危機に陥っていました。この危機から脱するために2013年に経営陣が入れ替わり、このときにCEOに就きました。
短期間で構造改革を実施するために、私たちは翌年の2014年にMBO(経営陣が参加する買収)を実施して株式を非公開化しました。そして世界中のメンバーの頑張りによって再び成長基調となった2020年、6年ぶりに再上場を果たすことができました。 MBOで会社を変革
1972年に大阪で創業したローランドは、今では幅広い製品群を提供するグローバルな電子楽器メーカーとなりました。創業以来、業界初・世界初となるゲームチェンジャー商品を次々と打ち出すことで業績を伸ばしてきました。 ソフトウエアとハードウエアの両面で高い技術力を持っていることがローランドの強みですが、これを支えているのがエンジニアたちの「アートウエア」です。これは、ミュージシャンだけが理解できるようなフィーリングやタッチ、レスポンスなど楽器ならではのアート感覚です。技術力とアートウエアの両輪が、他社に対する参入障壁の源泉となっていたわけです。↗ |
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「自分軸」がイノベーションの源泉
価値競争を勝ち抜くためには、イノベーションが不可欠です。ただ、日本企業の多くはイノベーションの創出を苦手としているところが多いように思います。日本が「失われた30年」に陥った要因はいろいろと語られていますが、企業がイノベーションを創出できなかった影響も大きいと思います。 私は、ノウハウや方法論、技術の問題ではなく、トップに強烈な思いと覚悟があればイノベーションを生み出す組織への変革は実現できると考えています。これを象徴している例があります。ダイソンのベストセラー商品となった羽根のない扇風機です。一般の扇風機と比べると、とても高額な商品です。ダイソンは2009年に特許を出願していますが、ある日本企業がほぼ同じような特許を1981年に出願しています。しかし、この企業はこれを商品化するには至りませんでした。イノベーティブな商品は過去に類を見ないものなので「世の中に出すんだ」という作り手の強い思いと覚悟がないと商品化に至りません。私は、トップの強い思いの下で、それぞれのポジションの社員が覚悟を決めれば、日本企業の改革を実現できると思っています。↗ |
改革を率いるリーダーに必要なことは「自分軸」です。「自分はどう思うのか」「どうしたいのか」「どうなりたいのか」「どうありたいのか」といったことを自分で決めて、自分で評価する生き方です。これに対して、世間体や人並み、人の評価や同調圧力を気にする生き方は「他人軸」です。日本では、他人軸の力がものすごく強く働いています。実は、これらは思い込みによる束縛です。他人軸を解き放ち、自分の思いの実現に向けて行動する人が増えてほしいと考えています。
現在の私のモットーは「人の目を気にしない」「人と比較しない」「人のせいにしない」という3つです。最後の「人のせいにしない」というのは、「自分のせい=自己責任」という意味ではなく、「他人のせいにせずに今の自分にできる目の前のことに集中して行動し続ける」ことを意味します。人の目を気にしなくなるだけで、失敗を恐れない思い切ったチャレンジができるようになると思います。↙ Vertical Divider
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失敗を称賛せよ
イノベーションの創出には、従来のPDCAサイクルは機能しません。長期的な計画は役に立ちません。お手本がないので、手をかえ品をかえて試行を繰り返すことになるからです。仮説に基づいて最低限の機能をもったモデルを作って評価して、ここから学んだことから次の仮説を立てて、またモデルを作り直す。このサイクルを高速に回していくことが必要です。失敗を繰り返しながら、だんだんと成功に近づくようなイメージです。これを実現するには失敗を恐れない企業文化が欠かせません。 最近では、イノベーション創出のために「失敗を受け入れよ」ということが語られていますが、海外のベンチャー企業には、「受け入れる」だけでなく「失敗を称賛せよ」という文化があります。もちろん、失敗そのものを称賛しているわけではなく、失敗から学べたこと、そして次への挑戦をたたえているのです。成果主義の影響もあって、日本には失敗を恐れる文化がありますが、失敗を称賛するようにならなければイノベーションの創出は難しいでしょう。↗ |
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見える化で戦略と行動を結びつける
ローランドの改革で実際に私たちがどんなことに取り組んだかをご紹介しましょう。1つ目が「見える化」です。どんなことが起こると、どの数字が変わるのかという因果関係を知りたかったからです。目標を達成するためには、何をすればいいのかを明らかにしたかったのです。見える化した数字は全社員で共有しています。経営戦略に基づいたKPI(重要業績評価指標)を設定することで、現場の行動と戦略を一致させることが可能になります。 その一例として、商品ごとの限界利益を四半期ごとに算出し、経営にどれだけ貢献したかを管理しています。その結果、全体の99%の限界利益を約3分の1の商品で稼ぎ出していることが分かりました。残りの3分の2は、1%程度の貢献しかなかったのです。原価計算上は大赤字の商品が、限界利益額ではトップ20に入っているというケースもありました。どれが実際にキャッシュを稼いでいる商品なのかが一目で分かりますし、いろいろな手が打てるようになりました。また、見える化の一環として、目標やビジョンを言語化することにも取り組みました。 TOC(制約理論)の知識体系の一つであるイノベーションプロセス「Eyes for Value(E4V)」で、10年後のありたい姿を描いた「WOW!カタログ」(未来を想定した仮想カタログ)をつくったのも見える化の一環です。どんな会社、どんな部署になりたいのか、どんな製品・サービスのラインアップを実現したいのかなど、夢を具体的なイメージに見える化すると、そこへの道筋が見えてきます。例えば「音楽教室に通わなくても楽器が弾けるように、AIによるオンラインのパーソナルレッスン」といったものです。ここで出てきた様々なアイデアは、クラウドベースのプラットフォーム「Roland Cloud」に盛り込んでいきたいと考えています。ハードウエアプロバイダーからソリューションプロバイダーに変革するという目標も掲げました。 ↗ |
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